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Articuland 2026 Orlandoで感じた、企業内学習の変化のきざし

執筆者の写真:  Ryota Kurihara
Ryota Kurihara
5 時間前
読了時間: 9分

2026年9月、Articuland 2026 Orlandoに初めて参加しました。

Articulandは、Articulateが世界の複数都市で開催するラーニングイベントです。2026年はオーランドのほか、ロンドン、バルセロナ、トロントでも開催されました。


会場には、企業のL&D担当者やインストラクショナルデザイナー、事業部門で教育に関わる人など、多くのArticulateユーザーが集まっていました。なかでも印象的だったのは、Storylineを長年使い続けている人の多さです。日本では見えにくい、eラーニング制作を専門性として積み上げてきたコミュニティの厚みを実感しました。


Articuland Session

今回、Articulateは「Learning Intelligence Platform」という新しいコンセプトを打ち出し、AIを前提とした方向へ大きく舵を切りました。新製品Frontlineも、L&Dだけでなく、営業部門やマネージャーなど、現場の専門家が学習コンテンツを作ることを前提としています。


私には、これは単なる製品ラインアップの拡大ではなく、eラーニングのリーディングカンパニーであるArticulateが、自らの役割を「コンテンツ制作ツール」から「組織の能力開発を支える基盤」へ広げようとする動きに見えました。


オープニングキーノート:ビジネスの変化に、学習はどう追いつくのか


オープニングキーノートでは、AIによって企業の製品、業務プロセス、仕事の進め方が急速に変化する一方、人が新しい方法を理解し、実践できるようになるまでには時間がかかるという問題が示されました。研修を公開した時点ですでに対象となるプロセスが変わっていたり、学習コンテンツが他の地域や部門へ届く前に、現場が独自の方法で対応を始めたりする事例が紹介されました。


ここで提示された中心的な課題は、「ビジネスが変化してから、社員が何をすべきかを理解し、実行できるようになるまでの時間」をどう短くするかということです。重要なのは、従来と同じコースをより速く作ることだけではなく、専門知識が組織内をどう移動し、どこで学習が作られ、どのように最新の状態を保つかを見直すことだと説明されました。

 

この課題への回答として、Articulateは従来の「Learning Creation Platform」を「Learning Intelligence Platform」へ進化させるという新しいコンセプトを発表しました。キーノートでは、その方向性が「Create」「Integrate」「Orchestrate」の3つの観点から説明されました。


  • Create:従来のコース制作に加え、ガイド、インタラクティブ動画、シナリオ、研修用スライドなど、状況に応じた形式で学習を作る。

  • Integrate:OneDriveやGoogle Driveなど、情報の参照元となるシステムと接続し、学習を必要とする人が日常的に使う環境へ届ける。

  • Orchestrate:ブランドや基準を適用し、コンテンツの管理、更新、分析を通じて、組織内の学習を一貫した状態に保つ。


新しいプラットフォーム体験では、制作物の所有者、形式、更新日、レビュー状況などを一覧で把握するライブラリ、複数のコンテンツに共通のブランド設定を適用する仕組み、利用状況や学習者の質問から改善点を把握する分析機能などが紹介されました。

 

あわせて、プラットフォーム全体で複雑な作業やワークフローを支援するAIエンジン「Nova」が発表されました。デモでは、OneDrive上の資料を参照しながらコース構成を作成すること、AIアバターによる動画を生成すること、複数言語へ翻訳すること、学習者からの質問にAI Tutorが対応することなどが紹介されました。


また、コンテンツを作るために外部の情報源と接続する上流側のインテグレーションと、学習者が日常業務で使うシステムへ学習を届ける下流側のインテグレーションという考え方も示されました。将来像のデモでは、学習者がArticulateやLMSを開くのではなく、Copilot上で必要な支援を求めると、Articulate内の承認済みコンテンツをもとに、その場面に合わせた学習や練習が提供される姿が描かれました。

 

そして、新製品の「Frontline」が発表されました。Frontlineは、従来のL&D担当者やインストラクショナルデザイナーだけでなく、営業や顧客サポートといった業務部門のマネージャーや現場の専門家などが、自分たちのチームに必要な学習を作ることを想定しています。


キーノートのデモでは、営業責任者が製品資料、価格情報、デモガイドなどを取り込み、対象者、必要な行動、成功指標を確認したうえで、研修用スライド、ガイド、会話練習用シナリオをまとめて作成する流れが紹介されました。また、ライブ研修の録画を、チャプターやナレッジチェックを含むインタラクティブ動画へ変換し、リンクで共有する例も示されました。


ここで強調されていたのは、現場の専門家をインストラクショナルデザイナーに置き換えることではありません。L&Dが設定したブランド、基準、ガバナンスのもとで、現場の専門家が自分たちの知識を学習コンテンツへ変えられるようにするという考え方でした。


クロージングキーノート:「Built to Learn」とCapabilityの形成


2日目のクロージングキーノートでは、CCO(Chief Commercial Officer)のMonica Sahaが「Built to Learn」という考え方を紹介しました。優れた組織は、単に業務をうまく遂行するだけでなく、うまくいった方法、組織固有の知識、経験から得られた判断を捉え、それを組織の運営に組み込んでいるというメッセージです。


McDonald’s、Toyota、Microsoft、Salesforce、ServiceNowなどが例として挙げられ、人の能力を育てることは、事業を支援する周辺的な活動ではなく、事業運営そのものの一部だと説明されました。特にServiceNow Universityの「Learning as an operating model, not a program」という表現が紹介され、学習を単発のプログラムではなく、組織がどのように動くかという運営モデルとして捉える考え方が示されました。


また、組織で能力が形成されるうち、正式な学習プログラムで行われるのは約20%であり、残りの80%は会議、Slackのスレッド、資料、専門家同士のやり取りなど、日常業務の中に存在するという説明がありました。ただし、それらの情報は、後から他の人が学び、実践できるように設計されたものではありません。


一般的なAIをそのまま使って情報を検索・再利用できるようにしても、元の情報が不均一だったり、古かったりすれば、その状態を速いスピードで広げることになります。知識を保有または検索できることだけでは優位性にならず、その知識を他の人が行動に移せる形へ変えることが必要だと語られました。

 

メール、Slack、Teams、資料、Wiki、AIなど、現代の企業には情報を伝える手段が数多くあります。しかし、情報を伝えることと、人が実際にできるようになることは同じではありません。


Monica Sahaは、自身が過去に「研修」と呼んでいたものの多くも、実際には動画、会議、1枚の資料などによる情報共有だったと振り返りました。一方、顧客対応のロールプレイやシナリオ練習は行動を変える効果があったものの、専門家やマネージャーの時間を必要とし、規模を広げることが難しかったと説明しました。


この違いを踏まえ、キーノートでは「何を知っているか」ではなく、「その知識を使って何ができるようになったか」を重視する必要性が繰り返し語られました。特に、組織内の優れた専門家が持つ知識や判断を、より多くの人が実践できる能力へ変えることが、「Built to Learn」の中心的な考え方として示されました。

 

その中で提示されたのが「Capability Architect」という役割です。キーノートでは、デザイン、IT、UX、Platform Engineeringなどの分野で、ツールが広く利用できるようになった結果、専門家の役割がなくなるのではなく、共通の基準、仕組み、ガードレールを設計する側へ移っていった例が紹介されました。


同じように、L&Dもすべての学習コンテンツを自ら制作する役割にとどまらず、良い学習が組織のさまざまな場所で生まれるための条件を設計する役割へ広がると説明されました。L&Dの専門性を、営業、製品、IT、オペレーションなど他部門も活用できるようにし、組織全体が人の能力を育てる力を高めるという考え方です。


最後に、情報発信を一つ選び、その情報を受け取った後に人が何をできる必要があるのかを問い直すこと、L&D以外の部門が能力開発を行うのを支援すること、組織内で優れた会話や判断を行っている人の知識を見つけて広げることが、具体的な行動として提案されました。


ユーザーセッション報告

Southwest Airlines:AI活用を支えるSOPと人の判断


Southwest Airlinesでは、70,000人以上の従業員・契約社員に向けた2,500以上のコースを、約20人のコンテンツ開発者で支えています。AIの活用により、従来約8時間かかっていたストーリーボードの初稿作成を約20分まで短縮した事例が紹介されました。


同社は現場のコンテンツ開発者から変革チャンピオンを選び、AIを使う場面、プロンプトの考え方、出力のレビュー方法をSOPとして整備しました。人によるレビューを必須とし、AIを使わない情報領域も明文化しています。経験豊富なコンテンツ開発者の役割については、メンタリング、トラブルシューティング、業界動向の把握、チームへの共有などが挙げられました。


Ford:事業部門と中央組織による分散型の学習運営


Fordでは、複数の事業ユニットと25のスキルチームが、それぞれL&D機能、予算、優先順位を持つ分散型のモデルが採られています。一方、LMS、LXP、Articulateなどの共通基盤は中央で管理されています。


Ford全体には約300人のL&D専門家がおり、Articulateのライセンスは約100、利用率は95〜97%程度と説明されました。中央組織は共通基盤やガバナンスを担い、コンテンツ開発は業務に近い各部門が担う構造です。


Block:L&Dが基準を整え、専門家がコンテンツを作る


オープニングキーノートで紹介されたBlockの事例では、100人を超える人がそれぞれの専門領域でコンテンツを作っています。L&Dはブランド基準、インストラクショナルデザインの考え方、ガバナンスなどを提供し、各部門が自律的に学習コンテンツを作れる仕組みを整えていました。


Articuland 2026参加所感


今回が初参加だった私にとって、まず印象的だったのは、eラーニングの専門家の中でも、特にArticulateのユーザーや関係者がおよそ1500人も集まったということです。日本では見えにくい、eラーニングコミュニティの厚みを実感しました。

Articuland Gate

今回紹介していないセッションでは、コンテンツ制作のヒントや学習設計の考え方、運用事例など現場での実践知を学べるものも多くありました。また、2日目の午後は、自分のPCで作業するワークショップが多く開催されていました。まさにデジタルラーニングの専門家のためのイベントだと感じました。


その一方で、冒頭にも書いたように、Articulateが打ち出した方向は、従来のeラーニングの延長だけではありません。「Learning Intelligence Platform」というコンセプトを掲げ、AIへ大きく舵を切り、Frontlineによって学習制作の担い手を現場へ広げようとしている。この変化自体に大きな意味があると感じました。

 

AIによって、必要な情報を得ることは急速に容易になります。しかし、営業担当者が製品知識を得ても難しい商談に対応できるとは限らず、管理職が理論を学んでも部下との対話で実践できるとは限りません。知識と実践の間には、依然としてギャップがあります。


今後の企業内学習では、情報を増やすことよりも、判断、実践、フィードバックを通じて「できる状態」をつくることが重要になるのではないでしょうか。

  • 現場で使える判断力をどう育てるか

  • 実践やフィードバックの機会をどうつくるか

  • 優れたノウハウを再現可能な形に変えるか

  • 専門家の知識や判断を、多くの人の能力へ変えるか


Southwest Airlines、Ford、Blockの事例に共通していたのは、L&Dがすべてを自分で作るモデルから、良い学習が組織の各所で生まれる条件を整えるモデルへの移行です。AIが制作を支援し、現場の専門家がコンテンツを作るようになるほど、L&Dには標準、ガバナンス、品質、実践の仕組みを設計する役割が求められます。


キーノートで語られた「Capability Architect」は、その役割を表す言葉でした。Frontlineもまた、現場での制作とL&Dによる基準設計を結びつける考え方の表れだと受け止めました。


日本企業にとっても他人事ではなく、着目すべきテーマが語られ、変化のきざしを感じたイベントでした。



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