人材開発部門の新たな役割について、人材開発におけるテクノロジー面での潮流をみながらご紹介します。
テクノロジーは、今私たちが直面していることに影響を与えているだけではありません。若い世代にも影響を与えています。例えば、クリスマスプレゼントをお願いするサンタクロースへの手紙についても、かつては、欲しいものを書いていたかと思います。今の子供たちは欲しいものではなく、AmazonのURLを手紙に書くのです。
私たちのテクノロジーの体験はどうでしょう。GPSを使い始めたときのことを覚えていますか?どこまでGPSの指示を信用していたでしょうか。10年前は指示通りに進むと池に落ちてしまったという事故がありました。今では、スマートウォッチとGPSを使って地図上に絵を描くことができます。
このようにテクノロジーと私たちの関係は時間とともに変化をしていきます。この10年という時間の間、パンデミックも大きな影響がありましたが、私たちは今までとは違うやり方で仕事をしていかなくてはならないということを体験してきています。
今私たちは、絶え間ない変化の中にいるといえます。そしてその変化は、実はリスキリングやアップスキリングが最大のチャンスになるということを意味しています。企業はこの変化に対してどのように取り組んでいくかが最大の課題になりますが、人事、人材開発部門は、この変革の始まり地点にいます。変化に対抗し守りに入るのか、変化に対応しイノベーティブになっていくのか、この分岐は人材開発部門が重要な役割を担っています。
・人材開発の4つのトレンド
先日のDegreedのイベントのセッションでは、ユーザー企業を招待し、グローバルでのL&D分野におけるテクノロジー面でのトレンドについて対話を行いました。その中で取り上げられらのが、次の4つのトレンドです。
(1)新たな設計への取り組み
(2)人材開発に関するテクノロジーが多様化
(3)スキルテクノロジーの進化
(4)AIの影響
(1)新たな設計への取り組み
人材開発は、あらたな設計に取り組み始めています。そのポイントは、「より速く」「良いものを導入」「キュレーションを取り入れる」「賢いやり方」の4点でした。
・より速く
コンテンツにおいては、フルオーダーメイドのデザインを減らしています。デザイン・マーケットプレイスを利用し、既存のコンテンツを堅苦しい印象から魅力的なコンテンツに修正しています。すでに用意されているデザインを活用することで、より速く展開をすることができます。
・良いものを導入
既存のカタログモデルを見直すことは必要な作業です。見直しに関しては、その判断に利用データの活用を始めています。契約先を分散し、学習者の学習活動から最適解を見つけるということも行っています。
・キュレーションを取り入れる
コンテンツはとても重要ですが、コンテキストはコンテンツに負けないほど重要です。コンテンツをキュレーションしてラーニング・エクスペリエンスを創造すれば、学習要望に対して、素早く価値を提供することができます。毎回コンテンツを作るのではなく、既存コンテンツを組み合わせてコースとするのです。プレイリストモデルは、現代の学習者のニーズに応えることができるモデルです。
・賢いやりかた
有料のコンテンツには利用期間等の制限があります。しかしWeb上には、活用できる無料かつオープンなコンテンツが豊富にあることを忘れてはなりません。活用のコツは、このコンテンツを発見しやすく、関連性のあるものにするためにフィルタリングすることです。
(2)人材開発に関するテクノロジーが多様化
企業内における人材開発に関わるテクノロジーは、とても多様化しています。LMSを活用して、運用を効率化していた範囲にとどまりません。特にソーシャルな機能や顧客志向のアプローチに関連するテクノロジーが注目されています。学習のパーソナライズ化や業務中の学習への対応、学習意欲への働きかけ、コミュニケーションやデータ分析など様々なテクノロジーが出てきています。すべてを網羅している総合ソリューションは存在しません。目的に合ったソリューションを選択できなくてはいけません。
(3)スキルテクノロジーの進化
スキルデータをビジネス価値へと活用していくために、多くの企業がスキルの分析に取り組んでいます。一例ですが、現在のDegreedにおけるスキルテクノロジーを紹介します。
「Skill I/O」:他のシステムからスキル情報をインポートし、Degreed内のスキル情報とマッチングを進めます。
「Ontology」:AIを活用しDegreed内のスキルを体系化したものを視覚化します。
「Skill inference」:履歴書や職務経歴書、その他の関連文書からスキルを自動的に推測し、取り入れます。これにより、スキルの登録数と評価数が従来の3倍以上になりました。
(4)AIの影響
ChatGPTに代表されるように、生成型AIの注目度は高くなっています。日本企業においても、積極的に導入する企業が出始めています。この生成型AIは、研修における教材作成においても活用の幅が広がってきます。
まずストーリの作成においては、ブレインストーミングから内容のまとめ、箇条書きの作成やサマリーの作成のみならず、クイズの作成まで対応するサービスが出てきています。
そこからプレゼンテーションを作成してくれるものや、画像や動画を作成するものもあります。このように、教材作成、コンテンツ作成においてもAIの影響は大きなものとなってきています。
・これからの人材開発部門の役割
ある企業の人材開発部門のリーダーは、「このコースを受講してください」と言うのではなく、「1年後、あなたはどうなっていたいですか?どのような役割に興味がありますか?」と尋ねるように変わっていきました。その理由は、グロースマインドセットを開発するために設計されたリソースとツールに裏付けられた、より目的のある仕事に向けて彼らを指導するためでした。
テクノロジーの変化は、人材開発の実施方法のみならず、従業員の成長についても影響を与えています。人材開発部門の役割はこれから変化が求められます。既存の役割からの変化だけでなく、新しい役割も出てくるでしょう。今求められている5つの役割をご紹介します。
・「パフォーマンス探究者」
パフォーマンス探究者は、ビジネスとパフォーマンスのニーズを分析する役割を担います。それから研修などの人材開発につなげていきます。学習ニーズを特定することではなく、組織のパフォーマンスを向上することが業務となります。
(パフォーマンス探究者は、70:20:10 Instituteによって提唱されている新たな役割です。)
研修計画などを担当している研修管理者の役割はアップスキリングしてパフォーマンス探究者になっていくことが必要です。
・「グロースハッカー」
グロースハッカーは、継続的に改善を続けながらビジネスやサービスを成長させることを実行していく役割を担います。スタートアップやマーケティング業界で着目されています。従業員のエンゲージメントを高めたり、人材開発や組織開発に関わる取り組みを浸透させたりするために、グロースハッカーは今後重要な役割になってきます。
・「インフルエンサー」
インフルエンサーは、世の中の考え方や行動に大きな影響力を与える人材を指しますが、企業内においてもインフルエンサーの役割に注目が集まっています。
人材開発の分野においては、エンゲージメントの促進や学習活動への関心や参加などに貢献します。
社内いるその分野の専門家や講師、リーダーといった人材はインフルエンサーになるポテンシャルを秘めています。「ラーニングインフルエンサー」はすでに社内に存在していて、さらに育成することができます。
・「コミュニティマネージャー」
コミュニティマネージャーは言葉の通りコミュニティを運営、活性化する役割です。その活躍の場はオンラインだけではなく、リアルのグループに対しても広がります。
人材開発の場においても、研修に参加している期間だけではなく、研修の前や後にもサポートをしていくなど、コミュニティをどのように運営していくかという視点が重要になっています。コホートラーニングという形式も増えていますし、企業内大学もコミュニティがあります。いかにコミュニティを形成し、情報発信や巻き込みながら成長を支援していけばよいのか。研修運営の担当者や講師は、今後、コミュニティマネージャーの役割が必要になってきます。
・「エクスペリエンスデザイナー」
人材開発のゴールを研修受講からパフォーマンスにシフトしていくと、研修の設計は、プログラムの設計から学習体験の設計へとシフトしていきます。また、体系化された研修を受講し、現場でじっくりと身に付けていくことができる場合には、プログラム開発に注力することは効果的であるが、そうでない場合、つまり変化を取り入れていかなければならない職場や多少な職場がある組織の場合、プログラム開発が追い付いていかない場合もある。その場合は、プログラムよりも、どのように学習をすることができるかの環境を設計する必要がある。プログラムをデザインしていたインストラクショナルデザイナーは、ラーニングエクスペリエンスデザイナーにシフトしていく必要があります。
・終わりに
「リーンスタートアップ」の著者であるエリック・リース氏の言葉に次のようなものがあります。
「勝つためのたった一つの方法は、他の誰よりも早く学ぶことだ」
今回紹介した人材開発の未来のヒントについて、どのような感想を持たれたでしょうか。ビジネス状況はこれからも変化していきます。人材開発部門は企業の成長にとってとても重要なポジションにあります。ぜひ皆さんのアイデアも追加し、今後の活動に活かしてください。
”このブログは、Degreed社のChief Learning Strategist Annee Bayeux氏が2023年6月に来日した際のセッションを再構成し、まとめたものです。”
Comments