Ryota Kurihara

2022年7月27日7 分

ラーニングカルチャーとは

近年、ISO30414への注目が高まっているように、人的資本に関する課題が認識されるようになってきています。そのきっかけともいえる経済産業省の報告書「人材版伊藤レポート」の中でも、人材戦略の視点の3つ目として、企業文化への定着が挙げられています。グローバルにおいても、企業文化の活性化が、CEO の議題の中でも最重要項目の一つとなっています。急速に変化する現代社会において、優秀な従業員を惹きつけ、維持することが非常に重要な課題だからです。企業文化の中でも特にラーニングカルチャーは、従業員の体験を向上させ、ビジネスを前進させる鍵となります。なぜなら、ラーニングカルチャーは、スキル開発、アジリティ、パフォーマンスを促進することができるからです。

ラーニングカルチャーの考察

では、ラーニングカルチャーとはどのようなものなのでしょうか。

ATDでは、ラーニングカルチャーを次のように定義しています。

「組織のすべてのレベルの従業員が新しい知識とスキルを継続的に求め、共有し、適用して、組織のパフォーマンスだけでなく自分自身のパフォーマンスも向上させる文化」

この定義から見えてくるポイントは、継続学習、知識の共有、グロースマインドセット、ラーニングアジリティといったものです。日本でも、生涯学習や自律的学習求められてきていますが、そこに近いイメージかと思います。

また、組織のパフォーマンスにも関わるため、従業員の行動だけでなく、リーダーや人材開発部門の関りも重要なポイントになりそうです。

このラーニングカルチャーについてですが、グローバルにおいても、まだまだ浸透が進んでいないようです。最近のアンケート調査によると、ラーニングカルチャーを「公式なトレーニングを提供し、コンテンツを作成し、完成度を測定すること」と考えている人材開発部門は多いという結果がありました。やかりカルチャーの醸成はなかなか道のりは険しいようです。ではどのように取り組んでいけばよいのでしょうか。

それについては、Degreed社のCLOのケリーさんが、著書「 The Expertise Economy 」の中で紹介している、ラーニングカルチャーの成熟度が助けになりそうです。

著書の中で、ラーニングカルチャーの成熟度を4つのレベルに分けて説明をしています。これを見ていくと、ラーニングカルチャーの認識と次にの取り組むべきものが見えてきます。

1. コンプライアンストレーニングの文化

コンプライアンストレーニングの文化を持つ企業は、従業員がビジネスに必要な規制や要件を確実に遵守することを重視しています。多くの企業は、コンプライアンストレーニングのカルチャーは持っているのではないでしょうか。

2. 必要なトレーニングの文化

ラーニングカルチャー成熟度モデルのレベルが上がるにつれて、企業は業務に必要な研修を提供するようになります。

海外においては、一般的にオンボーディングプロセス中に、または企業が新しいツールやプロセスを導入しているときに行われます。

日本においては、新入社員研修や階層別研修など、研修体系に組み込んでいる企業が多いのではないでしょうか。

3. 戦略的な学習の文化

戦略的な学習の文化は、コンプライアンスと必要な研修の枠を超えています。ビジネス戦略に基づき、目標を明確にしたプログラムを通じて従業員がスキルを身に付けることに焦点を当てています。

現在は、企業が自社のビジネスにとって重要なスキルやケイパビリティを特定することがますます多くなっています。多くの企業が最初に注力するのはマネジメントとリーダーシップの開発です。その中核となる学習の文化は、従業員の成長を組織の目標と一致させます。多くの場合、学習は「イベント型」です。従業員は新しいスキルを学ぶために職場から離れて研修に参加することが多いです。最近はブレンディッドラーニングといった複合的なアプローチを適用することも多くなってきています。

4. 継続的な学習の文化

継続学習の文化では、学習は従業員の日常的な仕事の一部となり、また、日常の一部分になります。このように、学習が毎日の習慣になります。

学習者が仕事の流れの中でスキルを身につけたり、学んだりすることを選択することができるのです。そして、学習と仕事がほとんど切り離せないものになるのです。

「学ぶために研修に参加し、学んだスキルを仕事に生かそうとすることは、もう過去のことなのです。これからは、学習と仕事がちょうど絡み合ってくるのです。」 と著者のケリーさんは語っています。

ATDでのラーニングカルチャーも、この継続的な学習の文化と同じことを目指しているのではないでしょうか。

この成熟度モデルに照らし合わせていきながら、自社の状況をアップデートしていくことがより成熟したラーニングカルチャーへの道となります。

また、ここでは、スキルやケイパビリティを目標とした学習や、仕事を行いながら学ぶといった内容が出てきています。この業務中の学び(Learning in the Flow of Work)ということは、これからの新たな学習として認識しておくことが重要になってきます。

学びの実際

ラーニングカルチャーについてまとめましたが、少し企業側の視点が強かった感もあります。では、実際に従業員はどのように学習しているのでしょうか。

Degreed社は、ラーニングカルチャーに対してアンケートを取り、その実態を調査しました。

この図のように、多くの従業員は、日々業務に携わりながら、何らかの学習活動を行っています。業務から離れて学習を行うという頻度は少ないのです。これはつまり、新しい学び方が浸透してきているということの表れです。研修に参加して学ぶということ以外に、自分で調べたり、周囲からの支援やフィードバックを受けたりすることも成長につながる学びなのです。

これはコロナ前の調査なのですが、今となってはさらに進んでいることは想像にたやすいです。

これからは、研修を提供するというだけでは、ラーニングカルチャーを浸透するには足りず、より業務中に浸透した学習環境への対応が必要になります。

学びの目的について

次に実際の従業員は、どんな理由でどのような学習を行っているのでしょうか。従業員の学習目的について、ラーニングカルチャーに対して前向きなとらえ方をしている従業員とそうではない従業員の比較データが出ています。

学習をする目的、動機については、次のような結果が出てきました。

ラーニングカルチャーに賛同する人は、より良いパフォーマンスを発揮するために学習する意欲を持ちます。

逆に、反対派の人は、要件を満たすためだけに学習するというモチベーションが高い(あるいはまったくモチベーションが上がらない)という割合が高くなっています。

業務中に行われている学習には、次のようなタイプがあります。

「自分の関心を優先した学習」

「業務要件を満たすための学習」

「転職や異動を意識した学習」

「キャリアアップのための学習」昇進、新プロジェクト

「今の業務で、よりパフォーマンスを出すための学習」

ラーニングカルチャーが浸透している企業ほど、業績を出し、自分が成長できる学習に注力する従業員が多くなっています。

先述のラーニングカルチャーの成熟度レベルで、レベル1やレベル2の段階では、受け身の従業員が多い状態であることが推測できます。

ラーニングカルチャーを醸成していくには、実際に従業員が学んでいる動機を把握するとともに、実際にどのように学んでいるのか、どんな内容を学んでいるのかを把握し、環境を整えるといったことが重要になってきます。このように学習ニーズが多様化してくると、よりパーソナライズした学習環境が求められるようになってきます。

ラーニングカルチャーは企業の成長にとって重要です。

昨今のビジネス環境の変化、働き方の変化、デジタル化の流れは、今まで経験したことのない早さで訪れています。従来の人材育成のやり方だけでは、対応しきれなくなってきています。実際にラーニングカルチャーを推進している企業の多くは、変化に対応し、成長を遂げているというデータも出てきています。

ラーニングカルチャーに取り組むことによる波及効果としては、次のようなことが挙げられています。

・パフォーマンスの向上

・人材のリテンション、エンゲージメントの向上

・イノベーションの促進

・リスキリングの促進

企業ごとに重点項目や実現方法は違うものになるでしょうが、企業も従業員も成長していくことができる場というものはとても魅力的ではないでしょうか。

本日ご紹介したラーニングカルチャーが、これからの人材育成について再考していくきっかけとしていただくとうれしく思います。

ケリーさん著書はこちら

The Expertise Economy

How Workforce Learn 2021のレポートはこちら

ポジティブなラーニングエクスペリエンスに関する最新データ|2021年度版How the Workforce Learns Report

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